国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「わかっている。お前が姫かもしれないんだろう?」

「え? それをどうして……?」
 
ニヤリと笑みを漏らすバレージに、ルチアはキョトンとなる。
 
すぐ近くにいるアローラもユリウスの側近ではないバレージがなぜ知っているのだろうと、首を傾げる。

「城で隠し通せる話などないってことだ。それよりも、ずいぶんと美しくなったものだな」
 
バレージの指先がルチアの顎にかかり、上を向かせられようとした瞬間、彼女は手を払っていた。

「クッ、気が強いのは変わっていないな。大人しく籠の鳥になったかと思っていた」
 
バレージは睨むルチアに口角を上げた。ルチアの前にアローラが進み出る。
 
ルチアだけでなく、ユリウスに対しても悪意に取れる。アローラは真剣な顔でバレージに頭を下げる。

「バレージ子爵、ルチアさんは陛下に呼ばれていますので失礼させていただきます」

 
アローラの言葉にルチアはホッとした。この男の目つきは落ち着かない気分にさせる。

習った通りにルチアはお辞儀をしてくるりと方向を変えると、腕が掴まれた。

「前に話した提案は有効だぞ」

「そんなことはこれっぽっちも思っていませんから」
 
ルチアはバレージの手から逃れると、歩き始めた。

「前に話した提案とは……?」
 
アローラはバレージの言葉を疑問に思い、ルチアに尋ねる。

「……街で暮らしたくなったら俺のところへ来いと」
 
アローラは心の中で憤慨する。彼女が姫かもしれず、陛下がルチアを愛していると知っての言動。バレージ子爵は要注意だと、ジラルドの耳に入れておかなければとアローラは思った。

「バレージ子爵には近づかない方がいいですね。馴れ馴れしくルチアさんに触れるなど陛下を軽んじているようですわ」
 
そこへ黒の夜会服に身を包んだジラルドがふたりに近づいてきた。


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