国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ああ、ここにいたんですね。探しましたよ」

「ジラルドさま、申し訳ありません」
 
アローラは膝を折り、ジラルドに謝る。

「ルチアさんが見えないのでめずしく苛立っているんです。気を抜けば女性たちに囲まれてしまいますので」
 
ジラルドはダンスをしている男女の横を通り、ルチアをユリウスの元へ案内する。

視界が開け、数メートル先の数段高い玉座に座るユリウスをルチアは見つけた。

今日初めて目にする姿はシルバーブロンドの髪を後ろでひとつに結び、夜空のような色の夜会服に身を包んでいる。

そこで彼だけが光を放っているような存在感である。
 
宝石などをあしらった立派な玉座にユリウスは足を組み座り、その周りに女性が10人ほどいた。
 
アローラは小声で、彼女たちはこの国の有力者の娘や孫たちとのことルチアに教える。

国王とエラの結婚が延びたことで、自分たちにもまだチャンスがあるかもしれないと、ユリウスのご機嫌をとっているのだと。

「陛下がお待ちですわ。ルチアさん、行きましょう」
 
あの女性たちの中へ行くのは勇気がいる。でも、ユリウスは自分を待っているという。
 
ルチアは小さな吐息を吐くと、歩き始めた。
 
玉座まであとほんの少し……というところで、ユリウスを囲むようにしていた女性たちが急に退き始めた。彼女たちはルチアが現れたせいで退いたというわけではない。

彼女たちはルチアの斜め後方を見ている。
 
どうしてなんだろうと、ルチアが振り返ったとき、横から華やかなドレス姿のエラが堂々たる足取りで通り過ぎた。

「ユリウスさまっ!」
 
フリルがたっぷりあしらったローズ色のドレスを両手で持ち上げて、高揚した顔でユリウスに近づく。
 
ユリウスの英知あるエメラルドグリーンの瞳が近づくエラへと向いた。
 
そんなふたりを見て、ふいにルチアはその場に立ち止まった。ユリウスの視界からは彼を囲むようにしている女性が邪魔をしてルチアが見えない。

「どうしたのですか? ルチアさんも行きましょう。ユリウスさまがお待ちです」
 
ジラルドが振り返り、ルチアを進ませようとする。


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