国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「わたしは……ユリウスさまのところへは、あとで行きます」

エラの幸せそうな笑顔を見ていると、彼女の楽しいひと時を邪魔したくないと思った。

「ですが、ユリウスさまはあなたを待っておられるのですよ」
 
ジラルドが顔を顰めて渋い顔になる。今日の彼は全身が黒ずくめの夜会服で、女性に誘われるのを拒絶しているかのように冷たく見える。

「ユリウスさまにはあとで必ずと、伝えてください」
 
ドレスの裾をひるがえし、ルチアはその場を離れた。ルチアの後ろをアローラが追いかける。
 
ルチアは開け放たれた横の扉から中庭へ出る。

そこは大広間の明かりが届く場所で思い思いに男女が話をしたりしている。

座り心地の良さそうな椅子も用意されており、空いているのを見るとルチアはそこへ腰を下ろした。

「ルチアさん、夜会が終わらない限り、陛下と話やダンスをしたい女性たちが切れることはありませんよ」

「わかっているけれど……」
 
物おじしない性格だが、あからさまにユリウスを狙っている女性たちの中に入るのは躊躇われた。

「ルチアさんがエラさんのようであれば、陛下も苦労しないのでしょうね」
 
アローラの口から深いため息が漏れる。

「えっ?」
 
ルチアは靴を脱いでいて、アローラの声が耳に入っていなかった。

「いいえ。なんでもありません。それより足が痛いのですか?」
 
アローラはその場にしゃがみ、ドレスから覗くルチアの足に触れる。

「いつもより踵が高くて。脱いだらすっきりしました」
 
ルチアの顔に茶目っ気たっぷりな笑みが浮かぶ。

大広間からゆっくりとした曲調の音楽が風に乗って聞こえてくる。その曲は今日の午後、ダンスの先生に習ったときのものと似ている。
 
中庭に咲く花の匂いを感じようと、ルチアは目を閉じた。

「ジラルドの頼まずに、わたしが君を迎えに来るべきだった」
 
ふいに魅力的な男性の声がして、ルチアは目をパチリと開けた。

「ユリウスさまっ!」

「わたしを女性たちから救ってくれないとは酷いな」
 
薄く笑いながら恨み言を言ったユリウスはルチアの隣に腰を下ろす。


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