国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
どこからともなく現れた近衛兵たちに回りをぐるりと囲まれ、ふたりの姿は大広間にいる招待客から隠された。

 
近衛兵たちはふたりに背を向けて並んでいる。アローラはいつの間にかいなくなり、この空間はふたりだけになった。

「なにも言わなくても助けてくれる彼らがいるじゃないですか」
 
彼らとは近衛兵のことだ。
 
ルチアはここまで来てくれたユリウスに驚きながらも、嬉しくてにっこり微笑む。彼女の笑顔にユリウスも端正な顔をほころばす。

「君とダンスをしたくて夜会を開いたんだ。主役がいなくてはつまらない夜会になる」

「ほんの少しだけレッスンしたわたしが、大広間のみんなが見ている前で踊るなんて無理です。無茶を言わないでください」
 
ユリウスの手がルチアの手に重なる。その手がユリウスの形のいい唇に持っていかれる。
 
甘さの含む瞳で見つめられ、手の甲にキスされたルチアの心臓がドキドキと暴れはじめる。

「任せてくれれば、君はちゃんと踊れる」

「わたしは今日、何度もダンスの先生の足を踏んだんですよ? 怪我をしたいのですか?」
 
ユリウスは真剣な表情になったルチアを楽しそうに笑う。

「運動神経が鈍っている年配の先生を選んだせいだろう。君がわたし以外の若い男に教わるのは嫌だったんだ」

「ユリウスさま……」
 
嫉妬で若い男性をつけなかったことを考えると、なんだか可愛くてルチアはクスッと笑みを漏らす。

「子供っぽい考えだとでも思っているんだろう? 本当ならわたしが教えてあげたかったんだ」

「子供っぽいだなんて……クスッ、はい。そう思いました」
 
手を繋ぎ、こんな他愛のない会話が楽しくて仕方がない。

「踊ってくれるね?」
 
その手を離したユリウスは椅子から立ち上がると片膝をついて、ルチアをまっすぐ見つめる。そしてもう一度、ユリウスは彼女に向かって手を差し出した。
 
ルチアは困惑した表情を浮かべたが、ユリウスの手を取った。


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