国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ユリウスさま、アローラは?」

「別の馬車でジラルドと来るから心配はいらない。それとも狭い馬車の中にふたりっきり。なにかされると思っているのかい?」
 
ユリウスの瞳が楽しそうだ。ルチアをからかうのが楽しいらしい。

「そ、そんなこと思っていませんっ」

「早く君をわたしのものにしたい」
 
先ほどのからかうような雰囲気からガラリと変わって、真摯に見つめられる。

「君が姫に間違いないのだが……いつもそこに行きついて憤ってしまうよ」

「……おばあちゃんを責めないで……」
 
ルチアは隣に座るユリウスの手に手を重ねる。

「わかっている。おばあさんのせいだけじゃない。このまま強引に花嫁にしたいが、君の立場がなくなるのは避けたい」

「わたしは……今のままでいい。ゆっくりで……」
 
ルチアはエラが気になるし、ユリウスに負担をかけたくなくて、そう言っていた。
 
少しして馬車が止まった。

「あ……海の匂い」
 
大好きな潮風が鼻をくすぐった。

御者が扉を開けるのが待てず、ルチアは扉を開けて外に飛び出した。
 
そこはベニートが男たちに捕まったところだった。
 
日よけの天蓋付きのテントのようなものが設置されている。すぐ近くには料理人たちが忙しそうに動いていた。
 
その光景に先に外へ出たルチアは呆気にとられる。

「驚いたかい?」
 
すぐ後ろに立ったユリウスは声が出ないルチアの両肩に手を置いてテントの方へ歩かせる。

「ユリウスさま、……お城の厨房が丸ごと移動してきたみたい……」
 
アローラとジラルドもやって来て、驚くルチアを見て満足げだ。

「海を見ながら美味しいものを食べさせてあげたいと思ったんだ」

「ありがとうございます。嬉しいです」
 
にっこり笑ったルチアはテントの中へ入ると、城の居間のような家具を見てさらに驚く。
 
(重厚なテーブルセットやソファセットをどうやって運んだのだろうか)

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