国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
食事が終わり、ユリウスはルチアを立たせる。

「おいで」
 
ユリウスはルチアの手を取り、海の方へ歩き出す。座っていると見えなかったのだが、小さな桟橋が作られ、そこに手漕ぎ船があった。

5人も乗ればいっぱいの手漕ぎ船だ。そうはいっても国王が乗る船の造りや装飾には手がかかり、豪華なものになっている。

その手漕ぎ船を目にしたルチアは、ユリウスの手を離れ、それに近づくと振り返る。

「ユリウスさま? もしかして、あれに乗っていいのですか?」
 
手漕ぎ船を見るルチアの顔は輝き、居ても立っても居られない様子だ。

「ああ。少しだけ海に出よう」
 
満面の笑みを浮かべたルチアはユリウスの元に戻ってきて、彼の手を掴むと手漕ぎ船に向かって走り出す。
 
手漕ぎ船のすぐ近くに近衛兵がふたり立っている。
 
ふたりが近づくと、近衛兵ふたりは深く頭を下げたのち、国王がルチアに手を貸して乗船するのを見守っている。

「どうしよう。ワクワクするわ」
 
ルチアは真ん中より少し後ろの座席に腰を下ろし、さっそく手を海の中へ入れた。
 
ユリウスもルチアの隣に落ち着くと、近衛兵ひとりが乗り込み、背を向けて座った。

彼が船を漕ぐ。波のない穏やかな海へ手漕ぎ船が静かに動き出す。

「やはり君は海にいると、表情が生き生きする」

「ユリウスさま、ありがとうございます! 最高の気分です」
 
湾の中をゆっくりと手漕ぎ船は進み、陸地にいるアローラやジラルドの表情が見えなくなる。
 
そこで近衛兵たちの警備で立ち入れず、遠くから自分たちを見ている街の人々が目に入る。

「ユリウスさま、あの人たちは……?」

「街人だ。気になって見に来たんだろう」

「あんなにたくさん……」

首を伸ばして見ているようなたくさんの街人たちに今まで気づかなかったルチアは急に委縮した気持ちになってしまった。

「今日で君の顔は街人らに知られてしまったから、護衛なしに外へ出ることはしないように」

「えっ……? 謹慎は解けたのですか?」

「ああ。愛している君を悲しませたくない。いいね? 城が窮屈で外に出たいときは必ず私に言ってほしい」
 
ユリウスは嬉しそうに向けてくる瞳が可愛くて、頬に唇を寄せた。


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