国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
今日も沈んだ船は見つからなかった。


みんなは疲れきって、島に戻る間一言も話さない。

ルチアがバレージに叩かれた話を聞いたジョシュはそばに座り、心配そうな瞳で膝がしらに埋める頭を見つめている。

ルチアは身体を休めながら、どうしたらわかってもらえるのだろうと、考えていた。

だが、いくら考えてもバレージが考えを改めることはなさそうだ。

島に帆船が近づくと、バレージが慌てたように甲板へ出てきた。

うとうとしていたルチアはその足音に顔を上げて立ち上がり、バレージが見ている方向を見る。

すると、島に優美な小型の帆船が停泊していた。

小型の帆船といっても、国王の専用船、召使いや船員などの寝る部屋もあるので、それなりに大きく豪華な内装だ。

(あれは……?)

旗はラウニオン国のものだ。

またバレージのような人間がやってきたのだろうかと、ルチアは愕然となる。

隣にいるジョシュも困惑した表情で帆船を見ている。

ルチアたちを乗せた帆船が止まると、バレージは急ぎ足で側近と共に隣の帆船に向かう。

労働した男たちは疲れきった身体をようやく動かすといった動作で下船する。

ルチアは慌てたように小型帆船に向かうバレージを見ていた。

(バレージが慌てている……彼よりもっと位の高い人間が乗っているの?)

「ルチア?」

全員が下りたあともまだ突っ立ったままのルチアにジョシュが声をかける。

「え? あ、下りなきゃね」

階段に足を踏み出したルチアの頭は小型帆船に乗っている人物のことを考えていた。

(バレージよりも偉い人ならば、わたしの話を聞いてわかってもらえるかもしれない)

ルチアは少し気分が明るくなって、祖母の待つ小屋へ向かった。


< 27 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop