国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
祖母の小屋の前でエラが待っていた。

「ジョシュ、ルチア!」

エラはふたりに笑顔で近づいてくる。

「おつかれさま。身体は大丈夫?」

クリッとした目をジョシュに向けるエラは、彼の全身を確かめるように見る。

「大丈夫だよ。それよりもうおじさんも戻っているぞ」

「うん。でも、ジョシュとルチアが心配で……」

ジョシュは浅黒い顔で笑顔を見せる。

「俺たちは大丈夫だから、おじさんの世話をしろよ」

ジョシュの「俺たち」の言葉にエラは一瞬苦い顔になり、ルチアへ視線を移す。

「ルチア、あとで話があるの。いい?」

「夕食を食べてからなら少しだけ。明日もあるから早く寝たいの」

「うん。じゃあ、あとでね」
 
エラの話というのはジョシュのことに違いないとルチアは考えながら、小屋の入り口の布を開けて中へ入った。

「おばあちゃん、ただいま!」
 
祖母にはなるべく心配をかけたくなくて、ルチアは明るく中へ入った。

「おかえり。疲れただろう」
 
祖母は昨日と同じように薬湯を煎じて、ふたりに飲まそうと待っていた。

「おばあちゃん、ありがとう。いただきます」
 
苦くて美味しくない薬湯だが、明日も潜るために栄養を取らなければと、ルチアはゴクゴクと飲み干した。

ジョシュも飲み終わると、顔を顰めながらカップを祖母に渡す。

「ばあちゃん、聞いてくれよ。やつらひどいんだぜ。息が続かなくてすぐに顔を出したアントニオさんを殴ったんだ。それを見かねたルチア――」

「ジョシュ! 余計なこと言わなくていいから」

 祖母が思い悩むのが嫌で、ルチアはジョシュを止める。

「ルチアがどうしたんだい!?」

 そこまで言いかければ祖母が気になるのも無理はない。

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