国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「意識がないので飲まないかもしれません」

 
医師が心配そうにルチアの身体を起こすユリウスに言う。

「ルチア、ルチア、目を開けてくれ」
 
ぐったりとユリウスの胸に頭を預けたままルチアは目を覚まさない。
 
ユリウスはルチアの頭を上に向けると、頬に手を当てて口を開かせる。

粉薬を口の中へサラサラと流し込み、ユリウスは手だけをアローラへ差し出す。
 
アローラからコップを手渡されたユリウスは自ら水を口に含んだ。

そしてルチアの唇に唇を重ねると、少しずつ水を流し込む。
 
それを見ていたアローラは目をこれ以上ないほど丸くさせ驚いた。
 
そこへジラルドが静かに入って来たのだが、目の前で繰り広げられていることに驚き慌ててユリウスへ近づく。

「ユリウスさま! なにをなさっておいでですかっ!」
 
少しずつルチアの口に水を注ぎ込んでいるユリウスは手であっちへ行けというように動かす。

「ですが……」
 
いくら病気だからと言って、国王が島の娘と唇を合わせているのはいただけないと、渋い顔で見ている。

「娘の意識がないので、陛下は仕方なくされているのです」
 
医師が眉根を寄せているジラルドに言う。
 
ルチアは無意識ながら、水と薬を飲み込んだ。

「よかった……」

ユリウスは愁眉を開き、ルチアの身体を静かに横たえた。

「さすが陛下でございます」
 
医師が安堵してユリウスを褒めたたえる。

「アローラ、様子を見ていてくれ」

「かしこまりました」
 
アローラは膝を軽く折り、出て行くユリウスたちを見送った。
 
政務室に向かいながらユリウスは口を開く。

「バレージが戻りしだい、労働者の健康を確認するように言ってくれ。医師にもそう伝えろ」

「わかりました」
 
ジラルドは政務室までユリウスを付き添ってから、自室へ戻った。


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