国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
ルチアの熱はまだ高いが少し呼吸が楽になったようで、付き添っているアローラは胸を撫で下ろす。

何度も額に乗せた布を取り替えている。
 
太陽が地平線に沈みかける頃、アローラがランプに火を灯していると、外で誰かが叫んでいる声が聞こえてきた。
 
何事かと部屋を出て、狭いらせん階段を上がると、甲板に出る。甲板にはジラルドと兵士がいた。

「あなたは娘に付いていてください」
 
ジラルドはアローラの姿を見ると、戻るように言う。

「ルチア―! 大丈夫なのかー!?」
 
帆船を見上げて叫ぶのはジョシュだった。

潜る労働をしてから小屋へ戻ると、帆船へ連れて行き医師に診せていると聞いて飛んできたのだ。

しかし乗船は許されておらず、叫ぶジョシュを見張りの近衛兵が押さえている。
 
ジラルドはその様子を見ていると、背後にユリウスが立った。

「熱は少しずつ下がり始めている。明日、着替えを持ってくるように言っておけ」
 
ユリウスはそれだけ言うと、奥へ戻った。
 
バレージの報告書に島の青年とルチアが恋人同士だと書かれていたのを先ほど読んだばかりだった。

おそらく今心配で叫んでいる青年がルチアの恋人なのだろうとユリウスは察した。
 
報告書を目にしたとき、言いようもない嫉妬心がユリウスの心の中を覆った。

(わたしはあの娘に惹かれている……)

海でイルカと泳いでいるときから気になっていたのだ。だから泳げないふりをしてルチアと出逢うようにした。

(ルチアは亡くなったエレオノーラ似ている気がする……)
 
目の色はほぼ同じだが、髪の色はルチアほどエレオノーラのブロンドは淡い色ではなかった。

ユリウスはルチアの部屋の扉を開けた。

戻っていたアローラが椅子から立ち上がりユリウスを出迎える。

「アドリアーノさま」
 
ユリウスは頷くとルチアのベッドの端に腰をかけ、額の布を取り熱を確かめる。取った布はすかさずアローラが引き取り、冷たい水に浸して絞る。


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