国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「お前に相応しいのはジョシュじゃよ。ジョシュはお前のことをよくわかっている。お前みたいなじゃじゃ馬、他の男達は敬遠じゃ」

実際のところ、日増しに美しくなるルチアは島の男たちに常に注目されている。

「ジョシュが夫になるなんて絶対にいや」

「お前の意見は関係ないさ」

祖母はそっけなく言うと、再び鱗取りに取り掛かる。

ルチアは自分の意見は関係ないと言われ、横暴な祖母に憤りを感じて小屋を出た。乱暴に開けた扉代わりの薄い布がひらりと宙を舞う。

(わたしの夫がジョシュ? 絶対にいやよ。それにまだ誰かと一緒になるつもりなんてないんだから。ジョシュを好きな子がいるのに)

ルチアと同い年のエラは仲のいい女友達。彼女の想いはずっと聞かされていた。

親友の想いを裏切ってまで、ジョシュと一緒になりたいなんて思わない。

ルチアは小屋を出て、簡単な造りの桟橋を身軽に駆けると、そのまま海めがけてジャンプした。

キレイな放物線の弧を描いて、ルチアのすらりとした肢体が海の中へ消えていく。

足を魚のように揃えたままで動かし深く潜り、それから腕でゆっくりと水を掻く。

水を掻くたびに髪が腕にまとわりついてくる。

水中で泳ぎながら、邪魔になる髪の毛を、どうしてまとめてこなかったのだろうと自分に腹をたてる。

長い髪は生き物のようにルチアの水中での動きを阻む。泳ぎづらい長い髪。

ルチアは何百回となく短く切りたいと思っていた。

それを行動に移せないのは祖母のため。自分をルチアの亡くなった母と重ねあわせている。

それに長い髪も良いところがある。

数年前から……ルチアの身体が子供から女性に変化していくのを隠してくれていた。

ゆっくり泳いでいると、少し先で男たちが魚を追っているのが見えてきた。

(はぁ~ここから去らないと……見つかったら、長老に叱られちゃう)

ルチアは向きを変え、漁の場所から素早く離れると自由に泳ぎ始めた。

そうしているうちに、いつも遊びに来る大きな亀がいつの間にか一緒に泳いでいた。

苛立った気持ちが治まるまで、しばらく海の中をルチアは探索していた。

< 5 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop