国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「まだ一度も目を覚まさないのか? そろそろ食べさせなくては治らない」

「はい。まだ一度も目を覚ましません。食べてからもう一度お薬を与えなくては」
 
ユリウスはルチアの滑らかな頬を撫でる。もう一度撫でると、ルチアのまつ毛がピクッピクッと震えた。

「ルチア、目を開けてくれ」
 
アローラが驚くほど優しい声だった。

「アローラ、目を覚ますかもしれない。食事の用意をしてくれ」

「かしこまりました」
 
アローラが退出すると、ユリウスはルチアの手を握って、口元へ持ってくる。

「ルチア、君はそんなにわたしに心配をさせたいのか?」
 
その言葉に反応したのか、ルチアの瞼がゆっくり開き、サファイアブルーの瞳を覗かせた。

「……わたし」
 
まだ状況が吞み込めないルチアは困惑の瞳でユリウスを見つめる。

「君は熱が下がらず、ここへ連れてきたんだ」

「ぁ……」
 
ようやく把握して、靄がかかったような頭を自分の手に動かす。
 
手を握られてユリウスの口元近くにある自分の手に驚いて引っ込めた。そして身体を起こそうとする。

「すみません。もう大丈夫ですから家へ帰ります」
 
迷惑をかけてしまったのはこれで二度目だ。自責の念にかられて床に足をつけて立ち上がろうとするが、ユリウスに阻まれる。

「何を言っているんだ!? まだ高い熱があるというのに」

「もう大丈夫です」
 
強がってみせるものの、頭はくらくらするし、足に力が入らなかった。それでもユリウスの手を押しのけて立とうとすると、身体がぐらっと揺れて重心が取れなくなった。

「危ない!」
 
ユリウスの腕に支えられ、ルチアは転ぶのを免れた。


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