国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
第三章 本物のエレオノーラ姫は
エラを船の下まで見送ったジラルドがユリウスの元へ戻ってきた。

ユリウスはまだソファに座っている。

「いかがでしたでしょうか? 姫に似すぎていると思われませんか?」
 
ジラルドは美麗な顔を微かに顰めたユリウスに言う。

「たしかに似ている。この島は船が沈没したと推測される場所からおそらくそう離れていないのだろう。死を覚悟した叔父上がエレオノーラをなんらかの方法で海に……そう考えられなくもないな」

「ええ。わたしもそう考えてしまいますね」

「3歳の頃では彼女の記憶もないだろう。両親に聞くのが一番の道だろうな」
 
そこへバレージと医師がやって来たと知らされ、ユリウスの思いは中断された。
 
海へ潜る労働をしていた島の者たちはやはり体力が酷く消耗していた。今日、明日の二日間を安息日にすることをユリウスは決めた。
 
エラがエレオノーラだとすれば、今は無理に沈んだ船を探さなくてもよいのではないだろうかという考えがよぎる。
 
バレージと医師に体調が悪い者への配慮をするように伝えると、ユリウスはルチアの元へ向かった。
 
ルチアの眠る部屋へ入ったユリウスは彼女の様子を確かめる。ルチアの額に手を置き、今朝よりは少し熱さが和らいだようだと安心する。

だが熱は上がったり下がったりと安定せず、ユリウスは心配している。薬は明日の夜の分で無くなる。
 
ユリウスのヒンヤリした手を額に感じたルチアは眠りから覚め、目を開けた。

「すまない。目を覚まさせるつもりはなかった」
 
アローラが静かに退出する。身体を起こそうとするルチアをユリウスは手伝い、背に枕を当てた。
 
ユリウスはベッドの端に腰をかけた。

「先ほど、君の友人のエラが着替えを持って来た」

「エラが……」
 
ルチアは驚いた。エラは人見知りをするし、ここへ来るには相当の勇気が必要だったに違いない。

「彼女とは生まれたときから一緒だったのかい?」

「姉妹のように育ちました。わたしには生まれたときのことはわかりませんが」

変なことを聞くユリウスにルチアは不思議に思う。


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