国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「そうだった。赤ん坊が生まれたばかりで、一緒にいたかわかるわけなどないな」

 
ユリウスは変な質問をしてしまったと笑う。

美しい顔に笑みが浮かぶと、ルチアの胸はとたんに暴れ出す。

「今日の午後、家に帰ります」

「まだ熱が高いというのに、なにを言い出すんだ?」

「でも祖母も心配だし……」

「ジョシュという男がいるだろう? 彼に任せて君はここで栄養のあるものを食べて休んでいなければだめだ」
 
ユリウスは諭しながらも、少し厳しく聞こえるようルチアに話す。

「迷惑ばかりかけて……」

「いや、この程度のことなど取るに足らない」
 
ルチアは早くみんなと一緒に潜らなければと焦っていた。自分が休むことで、みんなに負担がかかっていることだろう。
 
ルチアが考える素振りをしたので、わかってくれたのだろうとユリウスは安堵したのち、次に発した彼女の言葉にあ然となる。

「……薬よりも海に入れば治ると思うんです」

「君はいったい……」
 
ユリウスは絶句してルチアを見つめている。

「どうしたんですか……?」
 
ルチアはユリウスの表情が理解できず、キョトンとした顔になる。

「熱があるから海に入るという考えは改めたほうがいい。そのようなことで熱が下がるのだったら医師はいらない」

「えっ? 海に入っても治らないんですか? わたしはいつもそう――」
 
しかしここまで熱が出たことがない。身体がだるく、額を触れば少しある。そんなとき、海で泳いでいたのだ。

「君には心配させられる……」
 
ユリウスはふいにルチアを抱きしめたい衝動にかられた。否、衝動にかられるまま、ルチアを抱きしめた。

「ア、アドリアーノさまっ!?」

「君が心配でわたしはなにも手につかない」
 
エラよりもルチアがエレオノーラだったら……そう思わずにはいられない。そうなれば城へ連れて帰るのにと、ユリウスの胸は苦しかった。


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