国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
はるかにルチアよりもエラのほうがエレオノーラの面影が強い。

それは城にかかった王弟家族の絵画を見た者ならそう思うだろう。
　
ルチアはユリウスに抱きしめられ、ジョシュと違った感じを受けた。ジョシュは兄妹のように育ち、抱きしめられることもあったが、家族の癒しのようなものだ。

しかしユリウスに抱きしめられると、胸の中でたくさんの小さな蝶がパタパタ飛び回るような疼きを感じるのだ。
　
これ以上抱きしめられていたら、胸が苦しくなる。そう思ったルチアはユリウスの胸に手を置いて距離を置こうとした。
　
そこへ扉が叩かれ、ユリウスはルチアをそっと離した。

「入れ」
　
ユリウスの合図でアローラが昼食を運んできた。パンと軟らかく煮こまれた肉の入ったスープだ。

「食欲がないと聞いている。食べなければ体力が戻らず、家にも帰れないぞ」
　
家にも帰れないと聞いて、ルチアは是が非でも食べきらなければと皿の中を見て思った。
　
これ以上ユリウスのそばにいると、自分がおかしくなりそうだ。歯止めの効かない思いが溢れそうで怖かった。

「いただきます」
　
誰ともなくルチアは言うと、スプーンを持ってスープを口へ運んだ。
　
食べているところをずっと見られているのはなんだか恥ずかしかったが、ルチアは黙々とスープとパンを交互に食べる。
　
食べ終わった皿の中に緑色の豆が数個残っていた。

「嫌いなのか？」

「初めて食べるものですが、これは嫌いみたいです。残してしまってごめんなさい」
　
ふとユリウスはエレオノーラもこの緑豆が嫌いだったのを思い出した。

「偶然だな。これを嫌いな人を他にも知っている。どうやら女の子はこれが苦手なようだ」
　
アローラが皿を片付け始め、ユリウスも立ち上がった。

「ちゃんと寝ていること。わかったね」

「はい……もう少し眠れば完全に治りますから」
　
ルチアはベッドに横になり、ユリウスは颯爽とした足取りで部屋を出て行った。


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