国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ルチアも不思議に思うでしょ?」

 
エラは上でなにを話しているのか気になっている様子。

「あ、ルチア、労働は今日と明日、休みになったんだよ。アドリアーノさまがお決めになったって。優しい人よね」
 
ユリウスの名前を出したエラは頬をほんのりピンクに染めた。

「明日まで休み……ジョシュはどうしたのか知ってる? ここへ来てもおかしくないのに」

「夕方会ったけど、ここへ来づらいみたい。ジョシュはルチアが好きなのに、我慢しているんだよ」
 
エラは思い出したようにクスッと笑う。

「エラ、何度も言うけどわたしはジョシュを兄のようにしか思っていないから。エラはジョシュを好きなんだからもっと積極的に行けばいいんじゃないかな」

「ルチア、いいの。わたしジョシュしか見えていなかったけれど、まだまだ素敵な殿方は街にたくさんいるんだから」
 
エラはユリウスやジラルドを見て、自分の男性を見る目が狭かったことに気づいた。
 
ルチアはあんぐりと口を開ける。

(エラはジョシュが大好きで仕方なかったというのに、どういう心境なの……?)

「わたし、島を出て街で暮らしたい」
 
エラの言葉にルチアは度肝を抜かす。

「街で……ひとりじゃ暮らせないわ」

「うん……それはわかってる」
 
それからエラは街に思いを馳せてしまい、考え込んでいた。
 
少ししてアローラがエラを呼びに来た。

「エラ、わたしも帰る」
 
微熱程度になったのだから、ここにいる必要はない。ユリウスに会えなくなるのは寂しい気持ちよりも悲しいほうが大きい。けれど、ユリウスは街へいずれ帰る人。好きになってはいけない人なのだ。

「ルチアさん、帰れるかは医師に聞かないとダメですよ。今日はもう遅いので明日になります」

ベッドから抜け出し、床に足を着けたルチアにアローラは言う。

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