国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
ルチアにとってなにもかもが初めてのことで、ユリウスにナイフとフォークの使い方を教えてもらいながらの楽しい夕食だった。

給仕する者も最初だけで、今はふたりきりだ。

しかしあと数時間後以降、もう会うこともなくなる。明日、出航するときルチアは見送らないつもりだった。去って行く船を見るのははつらい。

「ルチア」
 
ユリウスのロウソク越しの真剣なまなざしにルチアは微かに緊張が走る。

「明日は気をつけて帰ってくださいね。お天気はいいから、きっと気持ちがいいですね。あとで、エラにお別れを言わなきゃ」
 
ルチアは悲しそうに見えないようににっこり微笑む。

「ルチア、街に家を用意する。そこに住んでくれないか? たった数日の間で君を愛してしまった」
 
予想もしていなかったユリウスの言葉にルチアは目を大きく張った。

「意味が……」

「結婚は出来ないが、愛するのは君だけと誓う」
 
ユリウスはひどいことをルチアに話しているのはわかっていたが、彼女を手放せそうにない。

「妾……って、ことですか?」

「君の立場をそんな言葉で表したくないが……わたしは近いうち結婚するだろう」

「結婚するだろうって、他人事みたい……」
 
ルチアはこんなにも短期間で愛してしまったユリウスと別れるのはつらかったが、街で暮らすことになったら、彼と結婚する女性に憎しみと嫉妬を抱いてしまうだろう。

「不自由はさせないと誓う」
 
ユリウスは手を伸ばして、ルチアの手に重ねると握る。

「アドリアーノさまのことだから、不自由はしないと思うけど……わたしは街へは行けません」

「なぜだ!?」
 
ルチアの手を握る力が微かに入る。


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