国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
翌朝、まだ太陽が出ない前にルチアとジョシュは桟橋に向かった。

ユリウスの乗っていた帆船なら四時間ほどで街に着くが、馬力の小さな船では六時間はかかる。街へ着くのは昼前になるだろう。

「街で美味しいものを食べような」
　
船の前に座っているルチアはまだヒンヤリする風よけに毛布を身体に巻いている。

「そうだね……」
　
街でもしかしたらユリウスの居場所がわかったとしたら、と思うとルチアの気持ちが浮き立ってくるのがわかった。

（顔を見るだけ……それだけ……）
　
ルチアはしだいに明るくなってくる海を見つめていた。

　
６時間後、船はラーヴァの港へ到着した。港の管理人に係留料を払い、ふたりは街に繰り出した。
　
初めて街を訪れたルチアは人の多さに目が回りそうになる。いろいろな色彩が目につく街だ。
　
漁師風な人もいれば、商人らしき口ひげをたくわえた男、ルチアが見たこともないドレスを着てお付きの者と歩いている令嬢も。

「すごい人……」

「ああ、ラーヴァは王都でもあるから、活気があるんだよ。あそこ見てみろよ。ラウニオン国の国王の城だ」
　
ルチアはジョシュの指をさした方を仰ぎ見ると、見たこともないそびえたつ城が見えた。

真っ白な城の塔からラウニオン国の紋章が入った旗が風にはためいている。

「エラはあのお城にいるの？」
　
とても美しい城だ。

「たぶんな。あとでおじさんとおばさんを訪ねよう」
　
港から一本隣の通りに入ると、そこは活気ある市場になる。

「お！　ルチア、絞りたての牛乳が売ってるぞ。好きだったよな」
　
牛乳を買っても、街から島までの間に絞りたてではなくなってしまうが、ルチアはほんのり甘い飲み物のお土産をいつも喜んだ。

「美味しそう」
　
ルチアは潜った労働で得た賃金を持ってきていた。数日は街で過ごせるほどの賃金だ。


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