国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
それにユリウスは近いうち結婚するだろうとも言っていた。

「ルチア……ユリウスって名前は街では珍しくないって。よく泊まっている宿の主人もたしかユリウスだったし」
 
ユリウスの申し出を断ったルチアは泣く資格などないのに、悲しくて胸が苦しい。

「買い物の気分じゃないよな。ルチア、確かめに行くぞ!」

「確かめに行くって、どこへ……?」
 
ジョシュに立たせられて、涙を拭きながら彼を見る。

「おじさんとおばさんのところだよ。半月前に来たとき、泊めてもらったんだ。行こう」
 
ルチアはジョシュの手に引かれ、歩き始めた。

(おじさんたちに会うのが怖い……)
 
だが、ユリウスがアドリアーノ候なのか真実を知らなくては。ルチアは知るのは怖かったが、勇気を出してジョシュのあとを付いて行った。
 
エラの両親の家は市場から三十分ほど歩いた美しい家が建ち並ぶ一画にあり、ひときわ大きな屋敷だった。

「島の生活とまったく違うんだね……」
 
屋敷を取り囲む鉄柵はかなりの距離だ。門に衛兵が立っている。姫の育ての親なのだから、手厚い警護がなされているようだ。
 
ジョシュは衛兵に名前を言って、取り次いでもらう。
 
屋敷へ確認しに行った衛兵が戻ってきて、ふたりを通す。

背丈の二倍はありそうな玄関を入り、広い部屋に通されたルチアとジョシュ。帆船のような豪華な内装に、座り心地の良さそうな花柄のソファで待っていると、おじさんが現れた。

「やあ、ジョシュ。ルチア、街へ来るなんてどうしたんだい?」
 
すっかり街の洗練された人のようなシャツとズボン姿のエラの父だ。

「おばあちゃんが許してくれたんで、遊びに来たんだ。おじさん、エラは国王と結婚が決まったのか?」
 
ジョシュが話を切り出す。

「ああ。もともと生まれたときからの約束だったようだ」
 
紺色のワンピースにエプロンとつけたメイドふたりがお茶と焼き菓子を運んできた。

「おじさん……国王さまは島に来たアドリアーノさま?」
 
ルチアは勇気を出して聞いた。


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