国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ああ。アドリアーノ候と言っておられたが、実は国王さまだったんだ。それには驚くばかりだったよ」

 
ルチアの心臓が大きくドクッと鳴って、それからしくしく痛みはじめた。

「おや、ルチアどうしたんだい? ああ、島では娘よりお前の方がユリウスさまに目をかけられていたな」
 
意地悪な言い方ではなく、心配そうな声色だ。

「ジョシュ……島に……帰りたい」
 
婚約でにぎわう街にいたくなかった。

「今帰れば大丈夫だよね?」

「ん、ああ。そうだな、帰ろう」
 
ジョシュはショックを受けているルチアを立たせる。

「今日は帰るよ。ルチアの具合がよくないんだ」

「そうかい……泊まって行ってほしかったが」
 
大きな屋敷の主人となったエラの養父に見送られて、ふたりは港に向かった。


島が遠目に見えてきた頃、太陽が沈み、月が出てきた。月明かりを頼りにジョシュは船を島に近づける。

ルチアは船に乗ったときから、横になり目を閉じていた。

これでルチアは自分のものになってくれるだろうと、密かに喜んでいるジョシュだが、今の彼女は見ていて痛々しい。
 
ルチアがこの恋を忘れるのはいつだろうか。もうそろそろ自分も待てないところまで来ていた。今、この時でも欲望が湧いてくるのだ。

「ルチア、もう着くぞ」
 
ジョシュの声にルチアが身体を起こしたとき、船は島の桟橋に到着した。

船が流されないように桟橋の木にロープで縛っていると、ルチアは力なく歩き出した。


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