国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
翌日、少し遅めに目を覚ましたルチアは祖母を探しに小屋を出た。

 
祖母は桟橋の方角から姿を現した。皺がたくさん刻まれた顔は心配そうだ。

「おばあちゃん、どうしたの?」

「まったく若い奴らは」
 
ルチアは首を傾げて祖母を見る。

「昨晩、ジョシュとマリオが酒を飲んでいただろう? 調子に乗って南側の海に入ったんだ」
 
南側の海はルチアがユリウスを連れて行ったサンゴ礁がある。

「マリオがサンゴ礁で足を切ったんだ。一晩経って起きてみれば足が倍に腫れあがっていたのさ。熱も高くてな。ジョシュが街へ連れて行ったよ」

「まあ……」
 
腫れあがっているということは、化膿しているかもしれない。ユリウスが切断もあると言っていたのを思い出す。

「ほんとにバカな奴らだよ」
 
祖母はそう言いながらも心配そうだった。
 
マリオは心配だが、ジョシュがこの分だと明日か明後日まで島にいないと思うとルチアの心が安らぐ。

「……今日はいつもより風が冷たいね」

ルチアは空を仰ぎ見る。白い雲がところどころあるくらいの晴天なのだが、これから雨が降りそうだ。

「ああ、降ってきそうだ」
 
祖母は部屋の中へ入って行った。ルチアは久しぶりに絵を描こうと、道具を持って洞窟へ行った。

娯楽のない島でのルチアの楽しみは泳ぐ以外に絵を描くことだった。

特に上手なわけではないが、なにも考えたくないときに描きたくなるのだ。
 
午後になると、空が暗くなり雲行きが怪しくなってきた。

「すごい雲……すぐに雨が降ってくるね」
 
ルチアは広げていた絵の道具を籠にしまって、家に歩き始めた。ちょうど部屋の中へ入ると、土砂降りの雨が降ってきた。

「おばあちゃん、すごい雨よ」

「ああ、風も強くなってきたし、これは荒れるね」
 
入り口は布を垂らしただけなので、祖母は板を置いて雨が吹き込んでこないようにする。


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