国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ルチアさん! ダメです。ベッドへ行きましょう」

 
アローラは片足を引きずり、ふらふらと扉へ向かうルチアの腕を支える。

「お願い、おばあちゃんのところへ行かせて」

「まだ起きてはダメです」
 
足の痛みに肩で大きく呼吸するルチアを見て心配になる。

「平気です。おばあちゃんのところへ案内して」
 
アローラの腕を振りほどく力もないのだが、ルチアは部屋を出ようとしている。

「陛下に叱られます」

「わたしが叱られますから」

「いえ、そういうことでは……」
 
ユリウスがルチアを大切にしていることはありありとわかり、怪我をしているのに出歩かせたと叱られるのはアローラだ。
 
扉を開けて真紅の絨毯が敷かれた廊下に出たとき、向こうからユリウスとジラルドがやって来るのが見えた。

「ルチア!」
 
廊下の壁に手を置いて、今にも倒れそうなルチアの元へユリウスは近づく。

「君はなにをしているんだ? 起きてはダメだと言ってあるだろう?」
 
ルチアはユリウスの手に支えられる。

「大丈夫です。おばあちゃんのところへ行かせて」
 
ユリウスの手をギュッと握ったルチアはサファイアブルーの瞳で懇願する。

「たった今おばあさんに会ってきたところだ。疲れてもう眠っている」
 
眠っていると言われて、ルチアの肩から力が抜け、ぐらっと身体が揺れる。

「ルチア!」
 
ユリウスは倒れてきたルチアの身体を抱き上げると、部屋に戻りベッドに横たえた。

「まだ歩くのは早いと、わかっただろう?」
 
側頭部と左足の傷がズキズキ痛み、ルチアは瞼を閉じる。

「おばあちゃんは?」

良くなっていたかと聞きたいのだが、言葉にするのもつらい。

「痛むんだろう? 今医師を呼ぶ。アローラ」
 
後ろに控えていたアローラにユリウスは医師を呼ぶように命じる。アローラはすぐに部屋を出て行った。


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