神にそむいても


「うた、着替えさせて」

「はい」

そばに控えていたうたさんは、昨日私にしてくれたように手際よく彼女の更衣をする。


着替え終わると姫は私と向かい合って座った。

ミケは姫のそばに腰を下ろしてウトウト。

そのミケを時々撫でながら、
「ねぇ、」
と話しかけてくる。

「はい」

「あなたには夫はいるの?」

「え!?夫!?」

「えぇ、夫よ」

そっか、この時代、私の年齢で結婚するのはきっと珍しくないんだよね。

智の顔が一瞬思い浮かぶけど、すぐに自分で否定する。


「……いえ、多分いなかったかと」

「そうなの?じゃあ、恋人は?」

智と、そして今度は孝くんの顔が浮かんだ。


「……どうでしょうか。それもはっきりとは覚えておりません」

胸がチクンと痛む。

それはどうしてなんだろう。

智に対して?
孝くんに対して?


「そうなの。でも、お慕い申し上げている方ぐらいはいたんじゃないのかしら」

さっきよりもずっと痛みが大きくなる。

「ふふ。その顔を見ると、いたようね」

「……多分」

「もしかすると、報われぬ恋だったのかもしれないわね」

ズキンズキンズキン。
ココロもアタマも痛い。

”報われぬ恋”。
そう、私の想いは報われないんだ。



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