神にそむいても
「そのような記憶がうっすらとあります」
肯定の言葉を口にすると、
思った以上にその事実に傷ついてることを自覚する。
ズキンとココロに針で刺されたような痛みが走った。
「それはどなたからか反対されているの?」
「……私の国では禁じられている間柄だったように思われます」
私と智はこんなことを言うことすらはばかられる関係だった。
事実を口に出すことはココロをとても傷つける一方で、
それすらも言うことを許されなかった現実は、
ここではかろうじて口にすることが出来て、
それだけで私の想いは少しだけ報われる気がした。
「……禁じられている間柄。そう……」
姫は口をつぐむと、私の奥の庭先に視線を向ける。
「だけど、気持ちをおさえられるものではないのでは?」
少しだけさみしそうに笑った。
その笑みは哀しいほどにきれいで、彼女の想いは痛いほど伝わってくる。
この人が間人皇女だとして、昨日のお兄さまと呼ばれた人が中大兄皇子だとすると、
間違いなく自分自身のことを言っている。
「周りになんと言われようとも、二人に想い合う気持ちがあれば、
例えその関係が罪だとしても、私はこの気持ちを曲げる気持ちはないわ」
さっきまでの態度とは一転、芯の強い口調で言い切る。
こんなにも自我を貫き通せるのはなぜ?
容姿はそっくりだけど、やっぱりなにもかも違う。
私はこわい。
私には想うことだけしかできない。
だけど、そんな自分を変えたくてこんな夢を見ているのかもしれない。
「その方に逢えないのは寂しいでしょう?」
「そうですね」
嗚呼、早く智に逢いたい。
嗚呼、早く夢から醒めて。
きっと今目が醒めたら、部屋を出てそこには智がいて。
きっと今なら智に私の想いを伝えられそうな、そんな気がした。