神にそむいても


私も急いで智のところに走り寄った。


縄が解かれて、
智が両腕を広げるのと私が抱きつくのはほとんど一緒だった。

自然と抱き合っていた、人目なんて気にせず。

とにかく智がいることが信じられなくて
まわしていた手で背中を撫でる。

うん、幻なんかじゃない。
ちゃんと智が存在してる。

智も智で、
私をぎゅうぎゅうと抱きしめてくれる。


「ホントに智なの?」

腕の中、顔を上げて目を見つめると、
智も見つめ返してくれる。

人目がある中で、
こんなふうに抱きしめ合って見つめ合うことができるなんて信じられない。

「美姫こそ。本物?」

私は何度もうなずく。

そして、私たちは笑い合った。


「美姫。
 素晴らしい再会の抱擁をしているところ申し訳ないんだけど、
 そろそろ戻るわよ」

「は、はいっ!」

そうは返事はしたけれど、離れがたい。
離れたら全部幻で智がいなくなっちゃうんじゃないかって。


「智、行くぞ」

「はい」

皇子からも促されて、私たちは離れた。

だけど、ちゃんと目の前に智は相変わらずいるから、
お互いに自然と笑っていた。

そして、自然と手をつなぐ。


あぁ、人目も気にせずつなげる幸せ。

あぁ、やっぱりこれは夢なのかもしれない。
だから、智が私を妻だと言った。

それは私が頭のどこかでそういう関係を望んでいたから。
だから、智の口からそんな言葉が出たんだと思う。

でも、智がいるなら、私はもうなにも望まない。

もう夢から醒めなくていい。
一生、この夢から醒めなくていい。

智がいてくれるなら。


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