神にそむいても


『源氏物語』なんかで女性の家に男性が通う、
いわゆる通い婚はこの時代でも主流みたい。

だから、智は皇子の手伝いを日中はして夜に今私が住んでいる家に来ることになると、
山からの帰り際皇子から言われた。


さっき別れたばっかりなのに、早く逢いたくて仕方がない。

でも、今夜ゆっくり逢える。
そう思うとカオがにやけてとまらない。


「美姫、顔に締まりがありませんわよ」

ヤバッ!

姫があきれたように指摘するから、慌てて両手でほっぺたをおさえた。

姫は
「ふふふ。智のことを考えているのね」
と優しく笑ってくれた。

「うん……」

照れくさくて視線をそらす。


「でも、美姫はいつか言っていたでしょ、報われぬ恋だと」

「……あぁ、……そうですね」

そう、現実世界では私の想いは報われない。
でも、これはきっと夢だから。


「だけど、その様子だと違ったようですね」

姫の言葉に曖昧に笑うしかなかった。

うん、違うんだ。
これは夢だから。

だから、違うんだ。



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