神にそむいても


「皇子、すっごい疲れてない?」

「うん……」

 智がすごくぼんやりしてる。

「どした?」

「いや……」

智が口ごもって視線をそらす。
この反応、絶対になにかある。

「話して?」

「あ~、うん……」


部屋に入って智に後ろから抱きすくめられる。

「孝徳天皇が皇子に姫をくれって言ってて。それは前からなんだけど。
 今日さ、姫を嫁に出さないなら皇子を追放するって言ってて」

え!

でも、それは歴史的に見ればあり得ないこと。

今も実質的には皇太子の皇子が政治を動かしてるはずだし、
皇子は大化の改新を遂行してそのあとに天智天皇にまでなってるから、
多分それはあり得ない。

確か姫が孝徳天皇にお嫁にいってるんだったよね。

姫と皇子を見てたら、そのことをすっかり忘れてたけど。

そうだった、一度はふたり別々の道をえらぶんだった……。


智はクルリと私の向きをかえ、私たちは向き合う。

「美姫。オレたちはなにも考えないでおこう」

チュッ、軽いキスをくれてやさしく諭すように言ってくれた。

「うん」

智もきっと考えてる。
だから私に言い聞かせるように、実は自分自身にも言い聞かせてるんだと思う。

「この世界でオレたちが生きてるのって、
 現代でかなえられなかったことをかなえるためだって思ってる。
 美姫は違うのか?」

「違わない、違わないよ」

私は首を振りながら答える。

「だったら、頼むからその気持ち貫けよ」

智が今にも泣きそうなカオしてる、どんな時でも泣かない智が。

鼻の奥がツンとする。

「うんっ」

「オレは絶対に美姫と家族になりたい。兄妹じゃなくて夫婦として。
 美姫との子供だってほしい」

こぼれそうになる涙を必死でおさえながら何度も何度もうなずく。


「美姫」

智は私を抱き寄せてキスをしてくれた。


智と離れたくない、つながってたい。
ココロもカラダも。

ずっとひとつになってたい。




揺らぐ想い 終



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