神にそむいても
おそるおそる玄関へ向かうと、
かすかな灯りにぼんやりと見える男性が頭を下げる。
「姫、ではありませんよね?」
「はい、違います」
「本当によく似ていらっしゃる」
「……あのご用件は」
「明朝来ていただきたい場所がございます」
「どこですか?」
「それは私からは申し上げられません」
「私が行かなくてはならないんですか?」
「はい。あの者のことで話があると伝えれば分かると」
あの者?
「智のこと!?」
「私には分かり兼ねます……」
「………」
「明朝迎えに参ります」
「……わかりました」
「くれぐれも皇子や姫には内密にと」
「言ったらダメなの?なんで?」
「私の口からは申し上げられません」
もうっ!なんでよ!
肝心のことは“申し上げられません”って!
でも、絶対に智のことしか考えられない。
「ではよろしくお願いいたします」
皇極天皇の使いは去っていった。