神にそむいても


「あなたの夫、智と言いましたね」

思わず顔を上げると、
彼女はなにかを企んでる笑顔で私を見つめる。

「あの者がどのようになっても良いのですか?」

したり顔で私を見る。

背中にイヤな汗が流れ落ちた。

「もしあなたが此度の事断るならば、あの男の命はないと思いなさい」

全身が逆毛立つ。

この世界で智に再会した時に皇子が智に刀を突きつけた時もこわかったけど、
あの時とは比べものにならないくらい。

吐きそう。

「智はどこにいるんですか!?」

「此度の事が首尾良く終わり次第、あの者を解放しましょう。
 但し、此度の事をあなたが出来ないのならば
 ……分かりますね?」

ヒザの上で握りしめていた手に一層力が入る。

「また此度の事、姫や皇子に話す事もいけません。
 ……よろしいですね?」

口の中に鉄の味がじんわりと広がってくる。

舌先で唇をなめてみるとそれはまぎれもなく血で
おそらくは唇を噛みしめたあまりの結果。



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