神にそむいても
翌朝。
いつものようにうたさんに呼ばれて姫の部屋へ行くと、
姫はミケを抱いて座っていた。
「ねぇ美姫。私を気遣って言っているのなら本当にやめてほしいの」
姫は悲しそうな目で私を見てる。
多分、自分のせいだって思ってるんだと思う。
確かにそれもあるけど、皇極天皇の目的はおそらくは皇子。
皇子に今いなくなってもらっては困るんだと思う。
そして、お兄さんの孝徳天皇の機嫌を損なわないように。
皇極天皇の今回の目的は娘かわいさというよりはすべては政治的な目的なんだと思う。
私は姫の言葉に首をゆっくりと横に振る。
「姫を気遣って言ってるんじゃないよ。
智は本当にもう帰ってこないような気がするし、
私もいつまでもここでずっとお世話になり続けるワケにもいかないし」
「そんなことは気にしなくてもいいのよ?」
私はやっぱり首を横に振る。
「気は遣ってはないの。でも、姫?じゃあ姫は帝のお嫁さんになりたいの?」
姫の瞳が大きくゆらぐ。
それを見て、ニッコリと笑いかけた。
「ねっ。だから、私がいけばちょうどいいでしょう?」
「でも……」
「皇子はあれからなんて言ってました?
私が帝に嫁ぐことに反対していましたか?」
「いえ。
ですが、美姫が智とあんなにも想い合っていたのに、
急に心変わりしたのかと心を痛めていましたわ」
心変わりなんてできない。
多分一生。
私の心から智がいなくなることなんて多分ありえない。
でも、そんなこと言えない。
この世界でもまた自分のキモチを偽らなくちゃいけないなんて。