神にそむいても
「今までお世話になりました」
頭を下げた。
姫の家の人ほとんど総出で見送ってくれてる。
姫やうたさんはすでに泣いていた。
姫に抱かれていたミケがピョンと下りて、私の足にすり寄ってきた。
ミケを抱えて頬を寄せると、スリスリ頬ずりをしてくれる。
私がこの世界で初めて会ったのがお前だったね。
なんだかそれもずいぶん前のことみたい。
ずっと昔からここで暮らしてたような気がする。
「美姫、私遊びに行くわね」
「帝と会うかもしれないよ?」
「ま、美姫ったら。会わないように伺いますわよ」
私の冗談に姫は怒ったふりをしてから笑った。
その場にいた人たちみんな笑う。
でも、みんな泣いてる。
もちろん、私も。
「では行きましょう」
孝徳天皇の使い・阿倍さんが出発を促す。
「美姫」
「美姫さま」
「美姫さま~」
みんな泣き声になってる。
姫にミケを渡した。
みんなとこれ以上一緒にいたら離れたくなくなるのがこわくて小さく頭を下げると、
そのまますぐに背中を向ける。
姫、うたさん、みんな。
本当にお世話になりました。
真偽のはざま 終