神にそむいても


「ふたりが倒れたってきいて、お母さん心臓とまるかと思ったわ」

そう言って、お母さんは目尻の涙をそっとハンカチでぬぐう。

胸のあたりがズキンズキンする。
罪悪感。
あの夢の中で、私はお母さんを捨てたんだ……。

智もお母さんのことを複雑そうに見てるけど。
でも、私と同じ理由じゃないよね……。


「なに?それ」

智の左手首にリストバンドのような細いものが巻いてある。

私の視線の先をたどり、
智は
「あ、これ?患者のカンタンな個人情報が書いてある」
と見せてくれた。

名前と生年月日、血液型が書いてある。


「私も?あ、あった」

両手を見ると、私も左手首に同じものが巻いてあった。

ドキッ。
智が私の手をとってそれを見る。

幾度となく、私の隅々までさわった手。
下腹部がほんの少しズクンってなるけれど、同時に胸がズキンってなる。

あれも全部夢だったのか……。



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