神にそむいても
「孝は?」
ドキン。
食器を洗う手が止まる。
ゆっくりと振り返ると、少しねぼけたカオの智がいた。
「さっき帰ったよ。カレー食べる?」
「うん」
返事をすると定位置―私の向かいの席―に腰掛けて、
リモコンでリビングのテレビをつける。
ガスコンロにかけてあったお鍋のカレーは少しだけ冷めていたので火をかける。
ガッコーで会う時とはまた違う緊張感。
人の目がないだけ安心。反面、人の目がない不安。
カレーを火にかけている間に残りの洗い物をすますと、
タイミングよく鍋のほうもあたたまったみたい。
ごはんとルーをカレー皿によそって智の前に差し出した。
「サンキュー」
まるで自分ちみたいに動いてたさっきの孝くんと
自分ちの自分のご飯なのになにひとつせずに待ってる智が
両極端で笑えるから、小さく笑った。
智は私が笑ったことに対して気づいたけれど特にきくこともなく、
「いただきます」と言ってから食べ始めた。
食後のデザートに準備していたりんごを冷蔵庫から出して、智の前に座る。
「リンゴ、智も食べるでしょ?」
私の問いかけにクチにカレーが入ってるから黙ったままうなずく。
「冷蔵庫に切ったの入れてるから」
「サンキュ」
智は大の偏食。
リンゴは果物の中で唯一好きな食べ物だから、お母さんがしょっちゅう買ってくる。
一方の私は好き嫌いは少ないほう。
同じ兄妹で同じ環境で育ってんのに、どうしてこうも違うんだろう。
赤の他人なんじゃないか。なんて思いたくもなる。
でも、実際はそうじゃないんだから、皮肉だ。
リンゴのシャリシャリと噛む音と
カレー皿にスプーンが当たってカチカチという音だけが
リビングでおしゃべりをしてる。
智は研修旅行の自由行動の時間は誰と行動をともにするのかな。
もしかしたら、誰かもう決まってるのかな。
聞きたい。でも、聞きたくない。
だけど、兄妹なんだから、聞いたっておかしくない。よね……?
どうやって話を聞き出そう。