神にそむいても


「あ、待って。ちょっとトイレ寄ってく」
「ん。持っとくよ」
「ありがと」


あ、……かも。

女子トイレに入るしほりの荷物を受け取り、壁を背もたれにして立っていると、
ガヤガヤと騒がしい集団が階段を上がってきているのを気配で感じ、思わずうつむいた。


「美姫(ミキ)ちゃん、次移動教室~?」

智(トモ)の親友・孝(タカシ)くんの声が聞こえて、いかにも今気づいたっぽく顔を上げる。

「あ……、うん」

孝くんは数人のグループの先頭を歩いてくる。

あ……。

孝くんの隣には智がいて、それとなく視線をやってはすぐに孝くんのほうを見た。
智も一瞬私のほうを見たような気がする。

だけど、お互いに視線は合せなかった。


「次、視聴覚?」
「うん」
「いいな~。せめて体育の後は涼みたいよね~」

そう言いながら、孝くんは胸元をパタパタと仰がせる。
かすかに汗の匂い。

「今の時間、体育だったの?」
「そ!このクソ暑い中、グラウンドでサッカー。死ぬっちゅうに」

確かに、孝くんのすぐ後ろに立ってる大友(オオトモ)くんなんかは頭から湯気がのぼってるし。

「とか言いながら、一番はりきってたのお前じゃん」

大友くんは孝くんの頭を小突いた。

「確かに」

孝くんが照れたように笑うのを見て、その場にいた私たちは笑った。
視線の端に映り込む智も小さく笑ってる。


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