神にそむいても


会議場を出て一番近いエレベーターのあるロビーに向かう。

エレベーターの前には、
私と同じように自分たちの部屋へ向かうであろう生徒の人だかりで混雑していた。


「葛城くん待って」

エレベーターを待っていると、背後で太田さんの声。

振り返ると、すぐ後ろに智が立っていた。

バッチリと合う私と智の目線。

と、智の向こう側にいる太田さんのあまり好意的とは思えない視線を感じ、
すぐに前を向き、耳だけは傾ける。

聴きたくないのに。
でも、聴きたい。

混雑している中、
まるで他の騒音がシャットアウトされたみたいに、神経がついそちらに集中してしまう。


「もう部屋に帰るの?」

「いや、地下のゲーセンコーナーで孝たちと待ち合わせてるから」

「私も一緒にいい?」

「さぁ。いんじゃない?」


智のどうでもよさげな返事に、正直ホッとする。

智がどういう反応したって、現状はかえられないのに。
バカみたい。


少しだけ後ろのほうを振り返る。
チラリとこっそりと。

それなのに、智の視線がぶつかった。

慌てて視線を前方にやるとちょうど上行きのエレベーターがやってきて、
それになんとか乗り込む。


エレベーターが閉まる間際、
ふたりは私の乗り込んだエレベーターの前を通過していく。

うつむきがちにそれを見ていると、智の視線はまるで私の存在を消すかのよう。

そして、太田さんは私を見ていて、一瞬勝ち誇ったような表情を浮かべた。

エレベーターはふたりの姿が見えなくなるとほぼ同時に閉まった。


なんだろう、この虚無感。
早く自分の部屋に戻りたい。

泪が出そうになってこぼれないように、
エレベーターの上部についてある階数の点灯ボタンが動くのををじっと見つめていた。


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