神にそむいても
「ねぇ、お兄さま。私とこの方、瓜二つだと思いません?」
そっと私の両肩に手を添え、後ろから顔をのぞかせる姫。
表情はうかがい知れないけれど、
声の調子からこの状況を楽しんでいることが感じられる。
お兄さま?
ということは姫のお兄さん?
目の前の“お兄さま”と呼ばれた男性は何度もまばたきをしたり目をこらして
私と姫を不思議そうに見比べたりしてる。
「姫、どういうことなのだ……?」
男は怪訝そうに姫を見るものの、姫は質問に答えない。
「俺は夢でも見ているのか?」
姫は小さく「ふふ」と笑うだけ。
「姫、どういうことなのか説明してくれ」
男はどっと疲れたように、その場に座り込んだ。
「えぇ、もちろん。お話しするわ。とってもおもしろい話よ」
「おもしろい話?」
「えぇ、そうなの。この方、庭に倒れていたの」
「お前、曲者か!?」
わっ!!
うす暗闇でもしっかりとわかる鋭い眼光に、今日一番の緊張が走る。
「どうなのかしら?
怪しい物は何も持っていなかったし、東のほうからきたことだけは覚えているようなの。
でも、自分の名前以外ほとんど覚えてない様子よ」
「お前、偽っていないだろうな?」
「偽ってなどっ!」
ギロリ。
相変わらず鋭い目の光に身がすくむ。
私は必死で否定。
だって、この人見てたら、マジで命がヤバいかもしれないってなんとなくわかる。
人間の本能が嗅ぎ分けてるんだろうか。
「お兄さま。大丈夫よ、きっと」
「何が大大丈夫なのだ」
「だって、日中から今まで変わった動きもしていないし。
それに何よりもこんなにも私に似ているのよ?
そのような者が曲者とは思えないの。
きっと神の思し召しだと思っているの」
「……信じていいのか?」
「はい……」
ギラギラと野犬のような瞳孔が見定めようとしてるから、
私はなにも悪いことをしてないのに、すっかり罪人の気分。
形があるものならば、潔白を証明できるこの胸の内を見せてあげたいくらい。