駄菓子屋へようこそ(仮)
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溢れる涙を我慢できず、思わず部屋を出て。
小一時間も経っただろうか。
ふと思った。
初対面のはずのお兄さんのことに、誰も触れなかった。
何かを知ってるように。
と、お母さんが来て背中を擦る。
「幸実、少し落ち着いた??」
「お母さん…」
言いにくそうに。
「……実は、話しておかなきゃいけないことがあって。まさかこんなタイミングになると思わなかったけど」
「………なに??」
泣き腫らした目で鼻をすすりながらお母さんの顔を見る。
「実は、来月、お父さんの転勤が決まってて」
「……??うん…?」
話が飲み込めない。
「でね、幸実もお仕事あるじゃない」
「……うん」
「お父さんについて行こうと思ってて。幸実に家にいてもらえればいいんだけど」
「………1人で??この家で??」
「それは。自分の家なんだからいいじゃない」
それはそうなんだけど。
部屋は別といっても、お祖母ちゃんがお店にいたから何だかんだで家に一人でいたことないし。
結局、一人暮らしになるわけだし。家のことしなきゃいけなくなるじゃない。
いい大人が何を言ってるんだとお叱りを受けそうだけれど。
「それでね、これなんだけど」
一冊の古ぼけたノートというのが、紐で綴ったものを見せられた。