銀色の月は太陽の隣で笑う
プロローグ
鬱蒼と木々が生い茂る森を、奥へ奥へと。
目的なんて特にない。
ただ、自分の好奇心を満たすためだけに、青年は歩き続ける。
今までも、ずっとそうだった。
だから今回も、気持ちの赴くままに進んでいく。
着古された旅装に、持ち物はこちらも使い込まれた布製のバッグが一つだけ。
縦に長い筒状の袋の口を紐で縛り、それを片方の肩に引っ掛けている。
風が枝葉を揺らす音を聞きながら、のんびりと歩いていた青年の耳に、不意に鳥の鳴き声が聞こえた。
それも一羽ではなく、数羽が鳴き交わすような声が。
顔を上げてみると、後方から飛んできた鳥達が、頭上を追い越して飛んでいくのが見えた。
行き先は、青年の進行方向と同じ。
しばしその場に足を止め、せっかくなので大きく体を伸ばして、緑の匂いがする森の空気を存分に吸い込む。
森に入る前に通ってきた村は、振り返ってももう見えない。
だいぶ歩いた感覚はあるけれど、それでもまだ道は続いている。
先の見えない道が続けば続く程に、青年の好奇心は疼き出す。
この先に何があろうとなかろうと、そんなことは別にどうだっていい。
ただ、行けるところまで行ってみたい。
だから青年は、ずり落ちてきた紐を肩にかけ直して、再び歩き始めた。
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