銀色の月は太陽の隣で笑う
少女の反応を伺うように、トーマはおずおずと問いかける。
「……やっぱり、ダメかな。突然やって来た知らない男にそんなこと言われても、困っちゃうよね」
何も言わない少女に、トーマは残念そうに笑いながら頭をかく。
「重ね重ね、ごめんね」
トーマがノートと万年筆をバッグの中にしまおうとしたところで、少女はふるふると大きく首を横に振った。
首の動きに合わせて、白銀の髪もまた左右に揺れる。
視界の端を動いた煌きにトーマが顔を上げると、少女はもう一度、今度は少し控えめに首を横に振った。
「えっと……」
意味がよく分からず困惑気味のトーマを正面から見据えて、少女は小さく口を開く。
「……わ、たし……なにもお話、持って、ない……」
少女が発した声は少し掠れていて、言葉もどこかたどたどしい。
森の奥に一人きりで暮らし、毎日のように訪ねてきてくれるのは鳥達だけとくれば、声を出す機会もそうそうない。
その為、本日初めてにして久しぶりに発した声は、まるで声の出し方を忘れてしまったかのようにぎこちないものとなった。