銀色の月は太陽の隣で笑う
「まあ、まだ風邪って決まってないからな。全部僕の考えすぎって可能性も、まだ大いにあるわけだし」
そうであってほしいという願いも込めて、トーマは独り言ちる。
万が一ルウンが風邪を引いたとしたら、その理由は今日の雨に濡れたことが原因に挙げられるだろうが、同じように濡れたはずのトーマはといえば、元々の頑丈さもあってか、体調に微塵も変化はなかった。
「ああ……なんでこんな時、僕はレインコートの一つも持っていないんだろう。やっぱりあの時、町で買っておけばよかった」
ここに来る途中、雨季が近いことをすっかり失念していたトーマは、しきりにレインコートや傘を勧めてくるおばさんに丁重なお断りを告げて、その三軒隣の店で新しいノートとペンのインクを買ったのだ。
今更悔やんでもしょうがないし、ノートもインクも無駄な買い物であったなんて少しも思ってはいないけれど、それでもあの時、レインコートも買っておくべきだったと後悔の念が押し寄せる。
「まあ、うん。これはもう、しょうがない」