銀色の月は太陽の隣で笑う
いつもはトーマが起きだしてくる頃にはとっくに身支度を整えていて、忙しそうに家の中を歩き回っている足音が、ルウンの気配が今日はしない。
ひとまず階段を下り切ったところでキッチンを覗いてみるが、そこにルウンの姿はない。
異様な程に静まり返った一階をぐるりと見渡して、トーマは窓の向こうに視線を移した。
「まさか、外に行ったのか……」
外は正しくバケツをひっくり返したような土砂降り。先日は珍しく太陽が顔を出していたのに、今日はそれも分厚い雲に隠されてしまっている。
流石にこんな雨の中に出て行くわけはないと思っても、“もしかしたら”が何度も頭の中をよぎっていく。
どこかの窓から家の裏が覗けないものかと歩き出したトーマは、不意にピタッと足を止めた。今一瞬、ぐすっと鼻をすするような音が聞こえた気がしたのだ。
首を巡らせると、今度は小さな咳が確かに聞こえた。
音がする方向に視線を向ければ、ルウンの寝室を仕切っている壁が目に入る。中の様子は覗えないが、耳を澄ませば確かに人のいる気配がした。
「……ルン?」