銀色の月は太陽の隣で笑う
思い切って声をかけるも、返事はない。けれど、確かに人が動く音が聞こえる。
トーマは視線を動かして、出入口用にぽっかりと空いた空間を見つめた。
本来ならばそこに扉がついているはずなのだが、古くて立て付けが悪くなったところを、ルウンが誤って根元から壊してしまった為、今は扉の形にぽっかりと穴があいているだけで、そこには何もついていない。
トーマの中で、部屋の中の様子を確認したい気持ちと、女性の寝室に勝手に入ることを躊躇う気持ちとがせめぎ合う。
「ルン」
ひとまず、先ほどの声は聞こえなかった可能性を考慮して、もう一度ボリュームを少し上げて呼びかけた。
耳を澄ましてみたけれどやっぱり返事はなくて、それなのに人の動いている気配は確かにする。
行くべきか返事を待つべきか、悩みながら扉のない空間を見つめていると、不意にそこからルウンがひょっこりと顔を出した。
「うわっ!?」
今まさに意を決しようとしたところで突然現れたルウンに、トーマは声を上げて身を引く。