銀色の月は太陽の隣で笑う

確かに“隣にいる”と言った。それは“隣の部屋にいる”という意味で放った言葉だったのだが、ルウンの解釈はどうやら違ったようで。


「えっと……だってほら、なんというか…………」


意味が違うとはっきり言えず、言葉を探して忙しなく視線を動かしていると、不安そうに瞳を揺らしたルウンが、そっと手を伸ばしてトーマの袖口を掴んだ。

そんなことをされてしまったら、例え隣の部屋だろうとも、もう置いてはいけない。


「……座るものを取りに、二階に行ってこようかなって。ほら、持ち運びに丁度よさそうな丸椅子があったでしょ」


納得したように頷いたルウンは、そっと掴んでいた袖口から手を離す。


「じゃあ……ちょっと行ってくる」


コクりと頷きはしたものの、ルウンの瞳は熱で潤んでいるのも相まって、まるで捨てられた子犬のように不安そうに揺れている。

堪らずトーマは、「すぐ戻ってくるから」と足早に部屋を出た。

体調不良のせいなのか、いつもと異なるルウンの言動に、トーマはすっかり心を乱されていた。


「……本当にルンってば分かってない。僕だって、これでも一応男だってのに」


ぼそりと悩ましげに呟いて、トーマは深々と息を吐いた。






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