銀色の月は太陽の隣で笑う
耳元でチャプチャプと水の音がして、ルウンは薄らと目を開ける。
視線を巡らせてみると、枕元にトーマが立っていた。
「あっ、ごめん。起こしちゃったね」
視線に気がついて申し訳なさそうに笑ったトーマは、ルウンの額にそっと濡らしたタオルを載せた。
「具合はどう?少しはマシになったかな」
どれくらい眠っていたのか定かではないが、心臓の音に呼応するようにして痛んでいた頭はだいぶよくなっている。
ルウンがコクっと小さく頷いてみせると、トーマの表情がほんの少し緩んだ。
「何か食べる?キッチン使ってよければ、簡単なものなら作れるけど」
ルウンは小さく首を横に振る。朝から何も食べてはいないけれど、お腹はちっとも空いていない。
「そっか、食欲はないか……。本当は少しでも食べたほうがいいんだろうけど」
トーマは困ったように呟きながら、ベッド脇の丸椅子に腰を下ろす。
ベッドの中からジッと自分を見つめる熱で潤んだ瞳に、そんな場合でないこと充分に分かっていても、トーマの胸が高鳴った。
「……やっぱり、もう少し眠るといいよ。そしたら、少しは食欲も戻ってくるかもしれな――」
咄嗟に視線を逸らしながら告げると、トーマの言葉を遮るように、袖口が弱々しく引かれた。
チラッと様子を窺えば、ルウンが不安げに見つめている。トーマにしてみれば、子犬のようなその瞳は正直反則だと思った。