銀色の月は太陽の隣で笑う
「どうしたの?」
“平常心”を自分に言い聞かせながら、トーマは笑顔で問いかける。
「……トウマ、どこか……行く?」
不安げに揺れる瞳と声音、縋るように袖口を掴む指先に、心臓がことさら大きく早く脈打ち始める。
「……どこにも、行かないよ」
答えた瞬間、ルウンは目に見えてホッとしたように表情を緩めた。その安心しきったような顔は、トーマとしては反応に困る。
ひとまず、袖口を掴んでいた指先を解いてベッドに戻すと、もう一度寝るように促す。途端にルウンは、困ったように顔を曇らせた。
「……眠くない、から」
頭の痛さや熱っぽさに引っ張られるように、朝から幾度となく眠りに落ちていたルウンだったが、いい加減その眠気も遠のいてしまった。
「分かった。それじゃあ無理に眠らなくてもいいから、そのまま横になっていて」
それならばと小さく頷いたルウンは、特に何をするでもなく横になったまま、またジッとトーマを見つめる。
ルウンにそんな気はないのかもしれないが、トーマにしてみれば、見張られているような気がしてならない。
それに、潤んだ瞳に長時間見つめられるのは、正直居た堪れなかった。
即座に脳をフル回転させたトーマは、思い立ってすぐさま口を開く。
「ルンがよければ、退屈しのぎに何かお話でもしようか」