銀色の月は太陽の隣で笑う
昔々――これは、この世界に魔法が存在していたって言われていた頃のお話。
とっても強い力を持った、一人の魔法使いがいたんだ。
彼は力が強すぎる故に誰からも恐れられ、同じ魔法使い達からも嫌煙されていたから、いつも一人だった。
一人ぼっちで、森の奥深くにひっそりと隠れるように暮らしていたんだ。
けれどそんな彼は、ある時一人の少女に出会った。彼女はね、森の中で道に迷っていたんだ。
少女を探してぞろぞろと人がやって来ては困るから、魔法使いは自分の姿を鳥に変えて、さりげなく彼女を出口まで導いてあげた。
無事に森から出た少女は、飛んでいく鳥に向かって大きく手を振りながら言ったんだ。
“ありがとう。またね!”
それからしばらくして、魔法使いはまたしても森の奥で迷子になっている少女を見つけた。
まるで何かを探しているようにキョロキョロと辺りを見回しながら、少女はどんどん奥まで入り込んでくる。
だから魔法使いは、いつ自分の住処が見つかるかと気が気じゃなくてね。鳥になって少女の元に飛んで行くと、森から出るように促したんだ。
鳥が飛んでくると、少女は素直にその誘導に従って森から出て行く。そして、別れ際に決まって言うんだ。
“ありがとう。またね”
それが幾度か続いたある日、少女はね、別れ際にその言葉を口にしなかった。
改まったように鳥に向き直って、その目をジッと見つめて言うんだ。