銀色の月は太陽の隣で笑う
「……今までは、どうしていたんだろうな。こういう時」
ひたすらベッドに横になって、一人ぼっちで耐えていたのだろうか。それとも、無理していつも通りに動き回っていたのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていたら、自然と手が伸びていた。
気がついてハッとして、慌てて伸ばした手を引っ込める。危うくその指先が、白銀の髪に触れそうになっていた。
「何をやっているんだ……!!」
何とか気力で声量を押さえて頭を抱えたトーマは、やがて音もなくすっくと立ち上がって足早に寝室を出る。
そして隣の部屋を、またしても動物園のクマよろしくウロウロと歩き回った。もちろん、できるだけ足音は立てないように気をつけながら。
「ああ……ダメだ僕は何をしているんだ。寝ている女の子の頭を勝手に撫でていいわけないだろ!いや、起きていてもダメだけど!でも、ああ……これじゃあまるで――」
“寝込みを襲おうとしていたようだ”とは、未遂でも自己嫌悪が過ぎるので、流石に口にできなかった。
そうしてトーマはしばらくの間、足音に気をつけながらウロウロと部屋の中を歩き回り、声を潜めて自分を叱り飛ばす。
気の済むまでそうしてから、今度は疲れたように椅子に座り込んでテーブルに突っ伏した。