銀色の月は太陽の隣で笑う
「いきなり、さあどうぞって言われても困ると思うから、まずは僕が気になったことを質問していくよ。もちろん、答えたくないことだったら無理に答えてくれなくていいから」
トーマの笑顔と優しい声、口の中に広がるハチミツの甘さが、またじんわりと警戒心を解かしていく。
右から左に飴玉を動かすと、通過した舌の上にショウガの爽やかな刺激も広がった。
「じゃあ、もう一度改めて」
そう言ってこほんと一つ咳払いしたトーマは、その瞳に真っ直ぐ少女の姿を映す。
「キミの日常の物語を、是非僕に形にさせてください」
お願いしますと頭を下げたトーマは、数秒の間を空けてから顔を上げ、少女の答えを待つ。
しばらく悩むような沈黙を挟んでから、少女はようやくコクリと小さく頷いた。
途端に、トーマの顔にぱあっと花が咲いたような笑みが広がる。
「ありがとう!凄く嬉しいよ」
興奮気味に喜びを表すトーマは、その勢いのままに少女に手を差し出す。
スッと目の前に現れた手を見て、少女はキョトンとした顔で首を傾げた。
「あれ?えっと……握手って、知らない?」