銀色の月は太陽の隣で笑う
「そうだ……元気にしているかな、あのご夫婦」
ふと思い出したのは、トーマに雨季の始まりだという話を教えてくれた老夫婦。
歳の割にとても元気でよく喋り、よく笑う陽気な人達だった。
実の息子のように可愛がってくれた二人を思い出しながら、トーマは文字を読み込んで、お話の流れを頭に叩き込む。
記憶するのには自信があったが、またどんな風にペースが乱されるか分からないし、その時に覚えたことが飛ばないとも限らない。
だから何度も何度も、念には念を入れて読み込む。
時折ルウンの様子を窺いに寝室に顔を出しながら、トーマはその日ひたすらノートに向かっていた。
途中からはもう、ルウンの為にお話を読み込んでいるというよりは、自分の為に文字を追いかける。
そうしていると、色んな雑念が振り払えて無心になれた。
熱で潤んだ青みがかった銀色の瞳も、どこかに行くのかと問う不安げな声音も、縋るように袖口を掴む指先も。それから、咄嗟にルウンの頭に伸びてしまった、自分の手も――。
何もかも振り払って無心に文字を追いかけ、やがてトーマは、ノートの上に顔を伏せて寝落ちした。