銀色の月は太陽の隣で笑う
しばらく難しい顔で黙り込んでいたルウンは、やがて掴んでいた袖口からそっと手を離して
「……食べる」
ぼそりと小さく呟いた。
「よかった。じゃあ、すぐに何か作ってくるから。あっ、キッチン借りるね。あと材料とか調味料も」
少し膨れ気味のルウンは、トーマから目を逸らして頷いた。
その姿に、トーマは思わず苦笑する。
「何か、食べたいものはある?」
それでも、去り際にリクエストはないかと尋ねると、ルウンはチラッとトーマに視線を向けて答えた。
「分かった。あんまり難しいものじゃなくて良かったよ。聞いておいてなんだけど、僕はルンみたいに料理上手じゃないから」
苦笑しながら寝室を出て行くトーマを見送って、ルウンは一人になった部屋でぼうっと天井を見上げる。
とても温かいものが、胸の中に満ちていくのを感じていた。
今まで体調を崩して寝込んだ時は決まって、冷たくて悲しいものが胸を満たして、辛い気持ちになるばかりだったのに。
スッと目の前に手をかざして、ルウンは自分の手をまじまじと見つめる。トーマが離れていこうとするたびに、まるで縋るようにその袖口に伸びてしまう手。
そこには確かにルウン自身の意思があるはずなのに、不思議な気持ちがしてならなかった。
この、ほんわりと体の内側を温めるものはなんだろう――。
まだルウン自身は名前も知らない”何か”が、密かに芽生え、そして育ち始める。
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